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人は馬で夢をみる ⑲ 「悔しさ」は、ものすごく爆発的エネルギーを持っている。 [お馬さんの話]

 こんばんは。
 久々にお馬さんのお話。
 そう。競馬です。

 本日、いや、もう昨日か。
 昨日は、東京競馬場で、競馬の祭典「東京優駿(日本ダービー)」の日。

 人には「意外~」と言われるが、猫たぬきは馬好き、競馬好き♪
 ギャンブルしなさそうに見えるのか? そういえば「お酒飲めなさそう」と言われたこともあるな。
 酒も飲むし、博打もする、と。
 借金するほどハマりはしないが、ほどほどに馬券を買う。

 『競馬の祭典』
 あるいは、運命の一日。
 日頃、馬に関わる厩舎の人々と騎手が、この日が終わらなければ、正月が来た気がしないといわれるほど、一年間の集大成。
 祭りというより、東京競馬場は、正に決戦の舞台。

 騎手たるもの、この東京優駿、「ダービージョッキー」の称号に憧れない者はいないと言っても決して過言ではないだろう。
 
 今年の単勝一頭は決めていた。
 馬の名は、「ディープブリランテ」、騎手の名前は、「岩田康誠」、と。

 彼、岩田康誠騎手は、園田の地方競馬の騎手だった。
 2004年に、地方騎手のまま騎乗したデルタブルースで、いきなり菊花賞(牡馬三冠の一冠。他二冠は、ダービーと、皐月賞)のタイトルを獲った男である。

 その後、中央競馬に移籍してからは、とんとん拍子に勝鞍を増やし、2008年にはブラックエンブレムで秋華賞(牝馬三冠の一冠。他二冠は、桜花賞とオークス)を獲り、2009年には、アンライバルドで、皐月賞。2010年には、落馬で怪我をした武豊騎手の代打騎乗、ヴィクトワールピサで、二度目の皐月賞を手にした。
 2011年は、アヴェンチュラで二度目の秋華賞。
 そして、今年。
 春の桜花賞を、ジェンティルドンナで制した。
 このジェンティルドンナで、牝馬三冠(桜花賞、オークス、秋華賞)を狙うが、勝利の女神はとても気まぐれ。
 その後のレースで、斜行による他馬の走行妨害とみなされ、二週間の騎乗停止となってしまうのである。
 折悪しくも、GⅠ戦線の続く週。
 その騎乗停止の間に、牝馬二冠目のオークス(優駿牝馬)がある。

 ジェンティルドンナは、川田騎手に託され、めでたく二冠目のオークスを獲った。
 人生に「もしも…」はないが、このオークスを岩田騎手が獲っていたら、すでに桜花賞、秋華賞のタイトルは獲っているので、牝馬の三冠タイトルを制覇出来たのだ。
 あのまま、何事もなくオークスに騎乗してタイトルを獲っていたら、ジェンティルドンナで、桜花賞、オークス、秋華賞と獲って三冠牝馬の騎手となれたかもしれない。

 しかし、過去は過去。
 騎手にとって一番必要な能力は、「過去を引きずらない」ことである。
 勝っても、負けても、一時間も経たないうちに、違う馬の違うレースがある。
 走る距離も、性格も、クセも、何もかも違う馬に乗るのである。
 「あの時、ああしていれば…」なんて、前のレースの失敗を悔やみながらの騎乗では、次のレースに勝てない。
 野球に「一球入魂」という言葉があるように、人と馬が同じ目標に向かって同じ想いで走らなければ、「人馬一体」になれない。

 岩田騎手は、二週間後のダービーに向けて、騎乗馬のディープブリランテの調教に、情熱のすべてを注ぎ込むことになる。
 
 「悔しさ」というのは、ものすごく爆発的なエネルギーを秘めている。
 人は、「嬉しさが爆発しています」という言葉はあまり使わない。(使う人もいるかもしれないが、あまりその爆発は伝わってこない)「嬉しさ」はもう少し穏やかに、溢れたり、満ちたり、沁みたりするものである。
 しかし、「悔しい」という思いは、火山の奥底に眠るマグマが爆発するように、後から後から湧いてくる。
 どうにもならないものだから、どうにもならないからこそ、そのエネルギーは、行き場のないマグマとなって、爆発するのである。
 で、あるなら、その悔しさというエネルギーをプラスの方向へ向ければ、その爆発的エネルギーが念となって、常人には普段出せない力が宿るのではないだろうか?
 
 2012年、5月27日、午後3時40分、日本ダービーの出走である。
 各馬がゲート内に収まり、係員が離れると同時にゲートが開く。
 年間、7千頭以上のサラブレッドが生産され、その中のたった18頭だけにしか与えられない日本ダービーへの出走権。
 その18頭の中で、たった一頭だけが、輝く「ダービー馬」の称号が与えられるのである。
 競馬ファンにとって、この瞬間を魅了されずにいられようか?(反語で読んでね)

 来る。
 絶対に、ディープブリランテが、岩田騎手が来る。
 なぜだか、今年のダービーは、勝利を信じて疑わなかった。
 こんなに確信を持って競馬観戦するのは、何年ぶりだろう?

 勝利の女神がどんなに気まぐれでも、前髪しかない女神の髪を、掴んで放さないだろう、岩田騎手の勝利への念が見える。

 ゴール前はさすがに息を飲んだ。
 猛追してきた、蛯名騎手のフェノーメノが、ゴール前でディープブリランテを捕らえたか?!
 「青葉賞の勝利馬は、ダービーに勝てない」というジンクスを払拭したのか?!

 決着は、写真判定。
 そして。
 
 掲示板の一着には、ディープブリランテの番号が。
 猛追してきたフェノーメノとは、ハナ差の決着だった。

 岩田騎手は泣いた。
 ディープブリランテの背に乗ったまま、男泣きに泣いた。
 
 男の涙はカッコいい。
 勝負を終えた後の男の涙は、もう、それだけでドラマである。

 東京競馬場。
 西(関西の意味)の騎手、岩田騎手が、東(関東の意味)の蛯名騎手を破って勝利したにも関わらず、場内には温かい「岩田コール」が起こった。

 素晴らしい騎乗。
 素晴らしい瞬間。
 素晴らしい一日。

 この数分のレースのために、一年を費やす厩舎の人たちすべての想い…。

 それを岩田騎手の涙は、語っていた。
 騎乗出来なかった二週間の悔しさは、涙と共に流れ落ちていった。
 悔しさを流しきったあと、ただ嬉しさが、熱い涙となって溢れてきて、ディープブリランテの背を濡らす。
 ディープブリランテは、岩田騎手の想いをわかっているのか、誇らしげに岩田騎手を背に乗せたまま、ゆっくりと地下馬道へと歩いていく…。

 それは確かに、10万人の観客の目の前で、人馬一体が魅せたドラマであった。

 ありがとう。
 ディープブリランテ。
 
 ありがとう。
 岩田康誠騎手。

 2002年の安田記念、アドマイヤコジーン以来、10年ぶりに勝利を確信したレースでした。
 近年稀にみる、見応えあるゴール前決着。
 蛯名騎手の騎乗もお見事で、位置取り、追い出しのタイミング、騎乗馬に向くレース展開、ほとんど完璧なレース内容だった。
 馬の能力に、おそらく差はなかった。
 あれは、悔しさという爆発的なエネルギーが念となって、あの数センチの着差を生んだのではないかと、そう信じて疑わないのは私だけだろうか…?
 
 いやはや。
 もう10年も競馬暦があるのね、私。
 しかし、10年に1度のインスピレーションじゃ、馬券師にはなれないな…。
 


2012-05-28 02:47  nice!(1)  コメント(1)  トラックバック(0) 
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猫たぬき

お久しぶりです、COLEさん。nice!ありがとうございます^^;
by 猫たぬき (2012-06-04 12:44) 

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